
営業資料が「わかりにくい」と言われる3つの原因と改善法|実例で学ぶBtoB営業の落とし穴
※この記事はオンラインサロンの内容を元に作成しています。
「理念は伝わったけれど、結局何をしてくれるサービスなの?」——商談後、顧客からこんなフィードバックを受けたことはありませんか?熱意を込めて説明したはずなのに、肝心のサービス内容が伝わらない。この問題はBtoB営業で頻発する「わかりにくい営業資料」の典型例です。本記事では、左官業界のデジタル化を目指すプロジェクトの実例をもとに、営業資料が「わかりにくい」と言われる3つの原因と、顧客視点で伝わる改善法を解説します。
- BtoB営業で「説明したのに伝わらない」と悩んでいる営業担当者・営業マネージャー
- 新規事業やサービスの媒体資料・営業資料を作成する企画担当者・マーケティング責任者
- 営業チームの成約率向上や資料の標準化を目指す中小企業の経営層・事業責任者

目次
なぜ営業資料は「わかりにくい」と言われるのか?
理念は伝わったのに「結局何をしてくれるの?」と聞かれる理由
営業の現場で、こんな経験はありませんか?プレゼンテーション後、顧客から「お話は分かりましたが、結局何をしてくれるサービスなんですか?」と質問される。自分では丁寧に説明したつもりなのに、肝心のサービス内容が相手に届いていない——この問題は、BtoB営業において極めて頻繁に発生します。
特に新規事業や革新的なサービスを扱う営業担当者ほど、この罠に陥りがちです。なぜなら、事業への熱意が強いほど「なぜこのサービスが必要なのか」「業界にどんな変革をもたらすのか」といった理念や背景に時間を割いてしまうからです。しかし顧客視点で考えれば、最初に知りたいのは「あなたの会社は何屋さんなのか」という極めてシンプルな情報です。
このギャップが生まれる最大の理由は、営業担当者が「目的と手段」を混同してしまうことにあります。自社のサービスが持つ本質的な価値(MVP:Minimum Viable Product)を明確にせず、提供手段(例:Webサイト制作、システム開発など)を先に説明してしまうと、聞き手は「つまり何をしてくれるのか」が最後まで理解できません。
左官業界プラットフォーム「壁ダン」の営業実例から見える課題
この問題を象徴する実例があります。左官業界向けWebプラットフォーム「壁ダン」の営業責任者Y.Kさんは、実際の左官業者を相手にしたロールプレイングで、痛烈なフィードバックを受けました。
「お話が上手なので、すんなり入ってきました。でも、結局は何をしてくれるところなのかなっていうふうに思いました」
相手役を務めたH.Rさんのこの言葉は、営業資料の構造的な問題を浮き彫りにしています。Y.Kさんは約48分かけて、左官業界の課題、デジタル変革の必要性、プラットフォームのビジョンを熱心に説明しました。しかし商談ロープレ後、H.Rさんは「企業ページ制作サービスなのか、Web運営会社なのか判断できなかった」と率直に語りました。
この事例が示すのは、営業トークのスキル自体は高くても、構成やプレゼンテーションの順序が間違っていると、成約に結びつかないという事実です。見込み顧客は限られた時間の中で「このサービスは自社にとって必要か」を判断しようとしています。その判断材料となる「何をしてくれるのか」が不明確なまま商談が進めば、稟議を通すことも、社内で説明することも困難になります。
BtoB営業で「わかりにくい資料」が失注を招く3つのリスク
営業資料が「わかりにくい」状態を放置すると、3つの深刻なリスクが生じます。
リスク①:商談時間が無駄に長引き、成約率が低下する 顧客が「結局何をしてくれるのか」を理解できないまま商談が進むと、本来必要のない質問や確認が増え、商談時間が延びます。時間がかかるほど、顧客の興味は薄れ、競合他社に流れる可能性が高まります。
リスク②:社内稟議が通らず、失注につながる BtoB営業では、担当者が興味を持っても、最終的には社内稟議を通す必要があります。担当者自身が「何をしてくれるサービスか」を明確に説明できなければ、上司や決裁者を説得することは不可能です。結果として、「検討します」という名目で失注するケースが増えます。
リスク③:営業が属人化し、組織全体の生産性が低下する わかりにくい営業資料は、優秀な営業担当者の「口頭での補足説明」に依存することになります。これでは営業ノウハウが標準化されず、新人育成も困難になります。組織全体で成約率を高めるには、誰が使っても伝わる営業資料の整備が不可欠です。
次のセクションでは、壁ダンの事例を詳しく分析しながら、営業資料が「わかりにくい」と言われる3つの具体的な原因を掘り下げていきます。
この項のまとめ
- 営業担当者が理念や背景に時間を割きすぎると、顧客が最も知りたい「何をしてくれるサービスか」が伝わらない
- 「目的と手段」を混同すると、サービスの本質的な価値(MVP)が不明確になり、顧客は判断できない状態に陥る
- 営業トークが上手でも、構成やプレゼンテーションの順序が間違っていれば成約には結びつかない
- わかりにくい資料は商談時間の長期化、社内稟議の不通過、失注という3つのリスクを引き起こす
- 営業資料の標準化ができないと営業が属人化し、組織全体の成約率向上が困難になる

【実例分析】営業資料が伝わらない3つの原因
原因①:サービス内容(MVP)が不明確で「何屋さんか」が伝わらない
壁ダンの営業ロールプレイングで最も深刻だった問題は、「このサービスは結局何をしてくれるのか」が最後まで伝わらなかったことです。Y.Kさんは左官業界の課題、デジタル変革の必要性、プラットフォームのビジョンについて詳しく説明しましたが、H.Rさんは商談ロープレ後も「企業ページ制作サービスなのか、Web運営会社なのか判断できなかった」と語りました。
この問題の根本原因は、目的と手段がぐちゃぐちゃになっている点にあります。フィードバックを行った伊藤氏は「壁ダンのMVPは何かということがパッと出てこないのは非常に大きい問題」と指摘しました。MVPとは「最小限の価値提案」、つまり「このサービスが顧客に提供する本質的な価値」のことです。
壁ダンの場合、MVPは「価値の高い仕事を創出する」ことであり、Webサイトはあくまでその手段に過ぎません。しかしY.Kさんは無意識のうちに「Webサイト制作」を前面に出してしまい、「Webサイト制作」が目的化してしまう罠に陥っていました。
伊藤氏は「ウェブサイトですよって言うとウェブ関係ないやって人が出ちゃうんで、それはあんまり良くない」と警告します。BtoB営業において、手段を先に説明すると、その手段に興味がない顧客は即座に離脱してしまいます。まず「何のために」を明確にし、その後で「どうやって」を説明する順序が極めて重要なのです。
原因②:プレゼンテーション構成が顧客視点になっていない
第二の問題は、プレゼンテーション構成そのものが顧客視点になっていなかった点です。H.Rさんは「どこまでお話が続くんだろう、いつ本題が来るんだろうと感じた」と率直にフィードバックしました。
Y.Kさんの営業トークは「理念→業界課題→サービス概要→料金体系」という順序で進みました。一見論理的に見えるこの構成ですが、顧客視点では大きな問題があります。なぜなら、聞き手は「このサービスは自分に関係があるのか」を最初の数分で判断しようとするからです。
目次・全体像がなく「いつ本題が来るのか」わからない状態では、聞き手は常に不安を抱えながら話を聞くことになります。「あとどれくらい続くのか」「重要な情報はいつ出てくるのか」が分からないと、集中力が低下し、肝心な情報を聞き逃すリスクも高まります。
商談の冒頭で「本日お伝えする内容は3つです。①当社が提供する価値、②具体的なサービス内容、③料金体系です」と明示するだけで、聞き手の安心感は格段に高まります。そして最も重要な「何をしてくれるサービスか」を最初に伝えることで、顧客は残りの説明を正しい文脈で理解できるようになります。
理念→業界課題→サービス概要の順序が失敗する理由は、顧客の関心の優先順位と逆になっているからです。顧客が知りたい順序は「①このサービスは何をしてくれるのか→②それは自社にどんなメリットがあるのか→③なぜこのサービスが必要なのか(業界課題・理念)」です。営業担当者の説明したい順序ではなく、顧客の知りたい順序に合わせることが、伝わる営業資料の大原則なのです。
原因③:データの信頼性・根拠が示されていない
第三の問題は、提示したデータの信頼性に関する説明が不足していた点です。Y.Kさんは月間ページビュー数やユーザー層の数値データを提示しましたが、H.Rさんは「何をもとにした何の数字なんだろう」「いつ頃調べた数字なのか」と疑問を抱きました。
BtoB営業において、データは提案の説得力を高める重要な要素です。しかし**「何をもとにした数字?」に答えられない危険性**があります。出典や調査時期、サンプル数などの根拠が示されていないデータは、かえって不信感を招く可能性があります。
特に稟議を通す必要があるBtoB商談では、担当者は上司や決裁者に対して提案内容を説明しなければなりません。その際、「この数字の根拠は?」と質問されて答えられなければ、提案全体の信頼性が揺らぎます。
PV数や市場データに出典・調査時期がない問題を解決するには、データを提示する際に必ず「出典:○○調査(2024年12月実施)」「自社プラットフォームの2024年10月~12月の実績値」といった補足情報を添えることが重要です。たとえ小さな注釈であっても、データの透明性を示すことで、提案全体の信頼性が大きく向上します。
この項のまとめ
- MVPが不明確だと顧客は「何屋さんか」を判断できず、手段(Webサイト)を目的化すると興味のない顧客が離脱する
- 目次や全体像を提示せず理念から入る構成では、顧客は「いつ本題が来るのか」不安を抱えたまま聞くことになる
- 顧客が知りたい順序は「①何をしてくれるか→②自社へのメリット→③なぜ必要か」であり、営業側の説明順序と逆になっている
- データに出典・調査時期・根拠が示されていないと、説得材料にならず逆に不信感を招く可能性がある
- 稟議を通す際に担当者が「データの根拠は?」と質問されて答えられないと、提案全体の信頼性が損なわれる

顧客の率直なフィードバックから学ぶ改善のヒント
「結局何をしてくれるところなのか分からない」の真意
H.Rさんが商談ロープレ後に発した「結局何をしてくれるところなのか分からない」という言葉は、単なる批判ではなく、極めて貴重な改善のヒントです。この率直なフィードバックの背後には、BtoB営業における本質的な課題が隠されています。
多くの営業担当者は、顧客が「分からない」と言ったとき、「説明が足りなかった」と考えがちです。しかし真の問題は、説明の量ではなく質と順序にあります。H.Rさんは「お話が上手なので、すんなり入ってきました」と営業トークのスキル自体は評価しています。つまり、話し方や雰囲気は良かったのに、肝心の情報が伝わっていなかったのです。
この「真意」を読み解くと、顧客が商談中に抱いていた心理状態が見えてきます。顧客は常に「このサービスは自社の課題を解決してくれるのか」「投資する価値があるのか」を判断しようとしています。しかし「何をしてくれるのか」という最も基本的な情報が不明確なまま商談が進むと、判断の軸そのものが定まりません。
結果として、顧客は商談中ずっと「この話はどこに向かっているのだろう」という不安を抱え続けることになります。これは営業担当者にとっても、顧客にとっても、時間の無駄遣いです。「分からない」というフィードバックは、「あなたの話には価値がない」という意味ではなく、「情報の提示方法を変えれば、もっと伝わるはず」というメッセージなのです。
ロールプレイングで浮き彫りになった構成の問題点
今回のロールプレイングが特に有益だったのは、実際の見込み顧客に近い立場の人物からリアルタイムでフィードバックを得られた点です。H.Rさんは業界の当事者として、Y.Kさんの説明を真剣に聞き、理解しようと努めました。それでも「分からない」と感じたという事実は、構成の問題が深刻であることを示しています。
H.Rさんが指摘した「どこまでお話が続くんだろう、いつ本題が来るんだろう」という感想は、プレゼンテーションの構成における致命的な欠陥を浮き彫りにしました。商談時間が48分に及んだにもかかわらず、最後まで「何屋さんなのか」が明確にならなかったのです。
この問題は、営業資料やプレゼンテーション資料を作成する多くのビジネスパーソンが陥る典型的な罠です。自分たちが伝えたい順序(理念→課題→解決策)で構成してしまい、顧客が知りたい順序(解決策→メリット→理念)を無視してしまうのです。
ロールプレイングという安全な環境だからこそ、H.Rさんは率直に「分からない」と言えました。しかし実際の商談では、顧客の多くは「分からない」とは言わず、「検討します」という言葉で商談を終えます。そして二度と連絡が来ません。ロールプレイングで得られた率直なフィードバックは、実際の商談で起きている「見えない失注」を可視化する貴重な機会なのです。
専門家が指摘した「目的・目標・手段の曖昧さ」
フィードバックを行った伊藤氏は、問題の本質を一言で言い当てました。「全体を通して目的と目標、それから手段とか方法に対する言及がぐちゃぐちゃで、曖昧だと思いました」。
この指摘は、営業資料の構造的な問題を的確に表現しています。多くの営業担当者は、「目的」「目標」「手段」の区別を曖昧にしたまま説明を進めてしまいます。壁ダンの例で言えば、以下のように整理すべきでした。
**目的:**価値の高い仕事を創出すること
**目標:**左官業者が適正な評価を受け、収益性の高い案件を獲得できる状態
**手段:**Webプラットフォームを通じた情報発信と顧客とのマッチング
しかし実際の営業トークでは、これらが混在し、「Webサイトを作る」という手段が前面に出てしまいました。伊藤氏が「ウェブは手段です。道具、手段。見せるための手段なのでそこを目的にしてしまうと大きな間違いを起こす」と警告したのは、まさにこの構造的な混乱を指摘したものです。
さらに伊藤氏は「壁ダンのMVPは何かということがパッと出てこないのは非常に大きい」と述べました。営業担当者自身が自社サービスのMVPを即答できない状態では、どんなに時間をかけて説明しても、顧客に伝わることはありません。
この専門家の指摘から学ぶべきは、営業資料を作成する前に、まず「目的・目標・手段」を明確に区別し、言語化しておく必要があるということです。そして営業トークでは、必ず目的から語り始め、手段の説明は後回しにする。この原則を守るだけで、営業資料の伝わりやすさは劇的に向上します。
この項のまとめ
- 「分からない」というフィードバックは批判ではなく、「情報の提示方法を変えれば伝わるはず」という貴重な改善のヒント
- 顧客が「何をしてくれるのか」を理解できないまま商談が進むと、判断の軸が定まらず不安を抱え続けることになる
- 実際の商談では顧客は「分からない」と言わず「検討します」で終わるため、ロールプレイングの率直な声は見えない失注を可視化する
- 「目的・目標・手段」が曖昧なまま説明すると、手段(Webサイト制作)が目的化してしまい本質的な価値が伝わらない
- 営業担当者自身が自社サービスのMVPを即答できない状態では、どんなに時間をかけても顧客に伝わることはない
営業資料を改善する5つの実践ステップ
ステップ①:MVPを3分で伝える「冒頭30秒ルール」
営業資料改善の第一歩は、商談の冒頭30秒で「このサービスは何をしてくれるのか」を明確に伝えることです。これを「冒頭30秒ルール」と呼びます。顧客は最初の30秒で「この話は自分に関係があるか」を判断します。この短い時間でMVPを伝えられなければ、その後の説明がどんなに素晴らしくても、顧客の集中力は低下していきます。
壁ダンの例で言えば、冒頭でこう伝えるべきでした。「壁ダンは、左官職人の皆さんが価値の高い仕事を継続的に獲得できるプラットフォームです。技術力に見合った適正な評価と報酬を得られる環境を提供します」。これがMVPの明言です。
「価値の高い仕事を創出する」を最初に明言することで、顧客は「このサービスは自分の収益向上に直結するものだ」と理解できます。そして残りの説明を、この文脈で聞くことができるのです。
重要なのは、手段(Web)ではなく目的から語る構成へ転換することです。「Webサイトを作成します」ではなく、「価値の高い仕事を獲得できるようにします。その手段としてWebプラットフォームを活用します」という順序です。伊藤氏が指摘したように、Webを前面に出すと「Web関係ないや」という顧客が離脱してしまいます。しかし「収益向上」という目的を先に示せば、すべての顧客が関心を持つはずです。
冒頭30秒で伝えるべき要素は以下の3点です。①サービス名、②提供する価値(MVP)、③誰のためのサービスか。この3点を簡潔に伝えることで、顧客は安心して残りの説明を聞くことができます。
ステップ②:目次・全体像を最初に提示して安心感を与える
第二のステップは、商談の冒頭で目次や全体像を提示することです。H.Rさんが「どこまでお話が続くんだろう」と不安を感じたように、ゴールが見えない説明は聞き手にストレスを与えます。
効果的な目次の提示方法は以下の通りです。「本日お伝えする内容は3つです。まず①壁ダンが提供する価値について3分で説明します。次に②具体的なサービス内容と導入事例を5分でご紹介します。最後に③料金体系と導入までの流れを2分でお伝えします。全体で10分程度を予定しています」
このように時間配分まで示すことで、顧客は「あと何分で重要な情報が出てくるのか」を把握でき、集中力を維持できます。また、目次を提示することで、営業担当者自身も話の脱線を防ぎ、構成に沿った説明ができるようになります。
プレゼンテーション資料を作成する場合は、2ページ目に必ず目次スライドを入れましょう。口頭説明だけでなく、視覚的にも全体像を示すことで、顧客の理解度は格段に向上します。
ステップ③:データには必ず「出典・調査時期・根拠」を明記する
第三のステップは、提示するすべてのデータに出典と根拠を明記することです。H.Rさんが「何をもとにした何の数字なんだろう」と疑問を抱いたように、根拠のないデータは信頼性を損ないます。
データを提示する際の必須要素は以下の3点です。
①出典:「自社調査」「○○社調査レポート」「業界団体公表データ」など
②調査時期:「2024年10月~12月」「2024年度」など
③サンプル数・対象:「左官業者100社」「当社プラットフォーム利用者」など
例えば「月間PV数5万件」というデータを提示する場合、「壁ダンプラットフォームの月間PV数:5万件(2024年10月~12月の平均値、自社アクセス解析ツールによる計測)」と補足します。
特にBtoB営業では、担当者が稟議を通す際に上司から「このデータの根拠は?」と質問される可能性が高いため、事前に根拠を示しておくことは、担当者を支援することにもつながります。データの透明性を示すことで、提案全体の信頼性が大きく向上します。
ステップ④:「失注事例」ではなく「なぜ失注しないか」にフォーカスする
第四のステップは、ネガティブ情報の扱い方です。伊藤氏は「失注の言及はやはりいらない。聞かれたら答えてください」とアドバイスしました。営業資料では、わざわざ失注や競合との比較でネガティブな側面を強調する必要はありません。
代わりに「なぜ失注しないか」、つまり自社サービスの強みにフォーカスすべきです。壁ダンの例で言えば、「一括見積もりサイトとは異なり、各企業の特色を活かしたページ作成に注力しているため、価格競争に陥らず、継続的な受注につながっています」と表現します。
「属性が違う」といった曖昧な表現も避けるべきです。具体的に「当社は企業の技術力や施工事例を丁寧にヒアリングし、その強みを最大限に引き出すページ設計を行います。そのため、価格ではなく価値で選ばれる顧客とのマッチングが実現します」と説明することで、顧客は明確な差別化ポイントを理解できます。
ステップ⑤:見込み顧客へのフィードバックで資料をブラッシュアップ
最後のステップは、実際の見込み顧客や既存顧客から継続的にフィードバックを得て、営業資料を改善し続けることです。Y.KさんがH.Rさんとのロールプレイングで貴重な気づきを得たように、顧客視点のフィードバックは何よりも価値があります。
具体的な実践方法として、商談後に必ず「本日の説明で分かりにくかった点はありますか?」「どの部分をもっと詳しく知りたいですか?」と質問する習慣をつけましょう。顧客の率直な声を集め、営業資料に反映させることで、成約率は着実に向上します。
また、社内でロールプレイングを定期的に実施し、営業チーム全体で改善プロセスを標準化することも重要です。一人の営業担当者だけでなく、組織全体で「伝わる営業資料」を作り上げる文化を醸成しましょう。
この項のまとめ
- 商談の冒頭30秒でMVP(何をしてくれるサービスか)を明言し、手段ではなく目的から語る構成に転換する
- 目次や全体像を時間配分とともに提示することで、顧客の不安を解消し集中力を維持させる
- すべてのデータに「出典・調査時期・サンプル数」を明記し、稟議を通す担当者を支援する透明性を確保する
- 失注やネガティブ情報ではなく「なぜ失注しないか」という自社の強みにフォーカスし、曖昧な表現を避けて具体的に説明する
- 商談後に必ず顧客からフィードバックを得て営業資料を継続的に改善し、組織全体で標準化する文化を作る
営業資料改善のチェックリスト【テンプレート付】
構成面のチェックポイント
営業資料の構成面では、顧客視点での情報の流れが最も重要です。以下のチェックリストを活用して、自社の営業資料を点検しましょう。
□ 冒頭30秒でサービスのMVP(何をしてくれるのか)を明言している
最初のページまたは最初の一言で「このサービスは○○を実現します」と価値を明確に伝えているか確認します。理念や背景から入っていないかをチェックしましょう。
□ 目次・全体像を2ページ目(または冒頭)に配置している
顧客が「どこまで話が続くのか」「いつ本題が来るのか」を把握できるよう、全体の構成と時間配分を示しているか確認します。
□ 顧客が知りたい順序で構成されている
「①何をしてくれるか→②自社へのメリット→③なぜ必要か(業界課題・理念)」の順序になっているか。営業側の都合で「理念→課題→解決策」の順になっていないかをチェックします。
□ 各セクションの目的が明確で、脱線していない
それぞれのページやトークセクションが「何を伝えるためのものか」が明確になっているか。関連性の低い情報が混入していないかを確認します。
□ 商談時間が適切にコントロールされている
全体で10~15分程度(詳細版でも30分以内)に収まる構成か。長すぎる説明は顧客の集中力を奪い、成約率を低下させます。
内容面のチェックポイント
内容面では、具体性と信頼性が鍵となります。曖昧な表現や根拠のない主張は、顧客の不信感を招きます。
□ 「目的・目標・手段」が明確に区別されている
サービスの目的(顧客に提供する本質的価値)、目標(達成したい状態)、手段(実現方法)が混同されていないか確認します。特に手段を目的化していないかに注意しましょう。
□ すべてのデータに出典・調査時期・根拠が明記されている
PV数、市場規模、顧客満足度などのデータには必ず「○○調査(2024年10月実施)」「自社プラットフォーム2024年度実績」などの補足情報を添えているか確認します。
□ 具体的な導入事例や成果が示されている
「導入企業の受注件数が3ヶ月で2倍に増加」「施工単価が平均15%向上」など、定量的な成果を示しているか。可能であれば企業名や業種も明記しましょう。
□ 曖昧な表現(「属性が違う」「クオリティが高い」など)を避けている
「属性が違う」ではなく「技術力重視の顧客とマッチング」、「クオリティが高い」ではなく「専任デザイナーによる個別設計」など、具体的に表現しているか確認します。
□ 競合との差別化ポイントが明確に伝わる
「一括見積もりサイトとは異なり、価格競争ではなく価値で選ばれる仕組み」など、他社サービスとの本質的な違いを具体的に説明しているか確認します。
□ ネガティブ情報(失注理由など)を不必要に強調していない
「なぜ失注しないか」という強みにフォーカスし、わざわざ弱みや失注事例を前面に出していないか確認します。
デザイン・見せ方のチェックポイント
視覚的な見せ方も、情報の伝わりやすさに大きく影響します。特にBtoB営業では、稟議資料として社内共有されることを想定したデザインが重要です。
□ 1ページ(1スライド)に1メッセージの原則を守っている
1つのページに複数のトピックを詰め込まず、伝えたいメッセージを1つに絞っているか確認します。情報過多は理解を妨げます。
□ 重要な情報が視覚的に強調されている
MVP、料金体系、差別化ポイントなど、最も重要な情報が太字、色、枠囲みなどで目立つようになっているか確認します。
□ 図解やグラフを効果的に活用している
文字だけでなく、フロー図、比較表、グラフなどを使って視覚的に理解しやすくなっているか。特に複雑なプロセスや数値データは図解が有効です。
□ フォントサイズが適切で、遠くからでも読める
プロジェクター投影や画面共有を想定し、本文は最低18pt以上、見出しは24pt以上のフォントサイズを確保しているか確認します。
□ 余白が適切に確保されている
情報を詰め込みすぎず、適度な余白を設けることで、視覚的な圧迫感を軽減し、重要な情報に目が行きやすくなっているか確認します。
□ 印刷・PDF化した際も見やすいレイアウトになっている
商談後に資料を共有したり、稟議資料として印刷されることを想定し、白黒印刷でも判読可能か、PDFでも崩れないレイアウトになっているか確認します。
このチェックリストを定期的に活用し、営業資料を継続的に改善していくことで、営業チーム全体の成約率向上につながります。特に新人育成や営業の標準化においても、このチェックリストは有効なツールとなるでしょう。
営業資料の改善は「顧客の率直な声」から始まる
理念先行の落とし穴から脱却する
本記事で取り上げた壁ダンの事例は、新規事業や革新的サービスを扱う営業担当者が陥りがちな「理念先行の落とし穴」を象徴しています。Y.Kさんは左官業界のデジタル変革という崇高なビジョンを持ち、その実現に向けた熱意を持っていました。しかし、その熱意が裏目に出て、顧客が最も知りたい「何をしてくれるサービスなのか」という基本的な情報が後回しになってしまったのです。
この問題は、Y.Kさん個人の能力の問題ではありません。H.Rさんも「お話が上手なので、すんなり入ってきました」と評価しているように、営業トークのスキル自体は高かったのです。問題の本質は、構成とプレゼンテーションの順序にありました。
多くの営業担当者は、自社のサービスに誇りを持ち、その背景にある理念や社会的意義を語りたいと考えます。しかし顧客視点で考えれば、理念や背景は「このサービスが自分に役立つ」と判断した後に初めて興味を持つ情報です。まずは「何をしてくれるのか」を明確にし、その後で「なぜそれが必要なのか」を説明する。この順序を守るだけで、営業資料の伝わりやすさは劇的に改善します。
伊藤氏が指摘した「目的と手段がぐちゃぐちゃ」という問題も、理念先行から生じています。Webサイトという手段に焦点を当てるのではなく、「価値の高い仕事を創出する」という目的を最初に明言する。この原則を守ることで、顧客は正しい文脈でサービスを理解できるようになります。
営業資料は属人化を防ぎ、組織全体の成約率を高める武器
営業資料の改善は、単に「伝わりやすくする」だけの話ではありません。組織全体の営業力を底上げし、属人化を防ぐための重要な取り組みです。
優秀な営業担当者は、わかりにくい資料でも口頭での補足説明によって顧客を納得させることができます。しかしこの状態は、営業ノウハウがその個人に依存していることを意味します。その担当者が退職したり、新人が入社したりしたとき、組織全体の営業力は大きく低下してしまいます。
一方、誰が使っても伝わる営業資料があれば、新人でも一定レベルの営業活動が可能になります。資料に沿って説明するだけで、MVP、サービス内容、差別化ポイントが正しく伝わる。これが営業の標準化であり、組織全体の成約率向上につながります。
また、営業資料の改善プロセスそのものが、組織内での知見共有の機会となります。今回のロールプレイングのように、実際の顧客や見込み顧客からフィードバックを得て、それを営業チーム全体で共有し、資料に反映させる。このサイクルを回すことで、営業組織全体が継続的に進化していきます。
BtoB営業において、稟議を通すのは顧客企業の担当者です。その担当者が上司や決裁者に説明しやすい資料を提供することは、担当者を支援し、成約確率を高めることに直結します。データの根拠を明示し、差別化ポイントを明確に示し、導入事例を具体的に提示する。これらはすべて、担当者が社内で提案を通しやすくするための工夫なのです。
今すぐできる改善アクションプラン
最後に、今日から実践できる具体的なアクションプランを提示します。
ステップ1(今日): 自社の営業資料を開き、冒頭のページを確認してください。「このサービスは何をしてくれるのか」が30秒以内に伝わる構成になっていますか?もしなっていなければ、1ページ目または冒頭の一言を書き換えましょう。
ステップ2(今週中): 営業資料のすべてのデータに、出典・調査時期・根拠を追記してください。「自社調査(2024年10月)」「業界団体公表データ(2024年度)」など、わずか一行の補足情報が信頼性を大きく向上させます。
ステップ3(今月中): 社内でロールプレイングを実施しましょう。営業担当者ではない部署の同僚や、可能であれば既存顧客に協力を依頼し、率直なフィードバックをもらいます。「分かりにくい」という声を貴重な改善のヒントとして受け止めてください。
ステップ4(継続的に): 商談後、必ず顧客に「本日の説明で分かりにくかった点はありますか?」と質問する習慣をつけましょう。顧客の声を集め、定期的に営業資料を見直し、改善し続けることが、長期的な成約率向上につながります。
Y.KさんがH.Rさんの率直なフィードバックから多くを学んだように、営業資料の改善に終わりはありません。顧客の声に耳を傾け、謙虚に改善を重ねる。その姿勢こそが、最も強力な営業力なのです。
編集後記
WEB業界で営業や提案に携わる方なら、Y.Kさんと同じ経験を一度はしているはずです。私自身も駆け出しの頃、サービスへの思い入れが強すぎて、顧客が置き去りになった提案を何度もしてきました。「伝わらない」という痛みは、成長の証です。完璧な営業資料など存在しません。大切なのは、顧客の率直な声を受け止め、改善し続ける姿勢です。今悩んでいるあなたは、すでに正しい道を歩んでいます。一緒に学び続けましょう。

講師紹介
株式会社ボンセレ 代表取締役
伊藤 祐介(いとう ゆうすけ)
❖ プロフィール
東京出身の“氷河期世代”。
身長182cm、見た目は大きめ、中身は細かめ。
公務員からスタートし、フレンチレストラン、築地魚河岸、ワインショップなど、業種も業界も超えて現場を経験。のちに広告代理店、EC支援、WEB制作へと軸足を移し、現在は複数企業のWEB戦略を支援。実務と現場視点に根ざした教育者です。
❖ 専門領域
WEBマーケティング/EC戦略立案
コンテンツ企画・制作
広告運用(SNS/検索)
顧客接点の設計とCRM支援
❖ 教育観・講義スタンス
「右腕は、育てることができる」。
人は“経験”だけでは変わりません。
変化するのは、思考のプロセスを鍛えたとき。
私は現場から、企画・広告・制作・接客・分析まで、すべての工程を実践してきました。だからこそ、「考えて動ける右腕」を育てるには、手を動かし、振り返り、問い直す場が必要だと考えています。
❖ 右腕育成にかける思い
「社長の想いを言語化し、現場に翻訳する存在」が右腕です。
単なるWEB人材ではなく、“経営を理解し、支える人材”を育てたい。
ひとつの強みを見つけ、自分にしかできない貢献の形を築く――
それが、このプログラムのゴールです。
❖ 私のルーツ
仮説実験授業(板倉聖宣 提唱)
科学的な思考法とディスカッションベースの学びに影響を受ける。プログラミングとの出会い
高校時代にBasicからスタート。VBAでの業務改善からWEB制作へ。
❖ 好きなこと
食べること・飲むこと・考えること。
最近のブームは激辛料理(ブートジョロキア)。
